楽器も歌も、全てがカゲキ!
なのに涙が溢れるのはなぜだろう

 不気味な旋律を高速で奏でるピアノ、爆竹のようなドラム。不協和音に満ちたイントロを経て、歌という名の絶叫が始まる。
「踊れ踊れ踊れ獣獣獣、歌え歌え歌え獣獣獣」
のっけから叩きつけられるものすごい緊張感は、9曲32分間、途中で切れるどころかラストまで上がり続け、メーターを振り切って終わる。

 大坂出身のバンド、ミドリの『セカンド』を聴いた時の衝撃を、どう説明したらよいか、なかなか言葉が見つからない。過激なサウンドに過激な歌詞、ミドリの生み出す楽曲はどれもが最高にパンクでアナーキーだ。

 ・・・なのに、である。なのに聴いていると、涙がこぼれそうになるのだ。


 かつて桑田佳祐は、サザンのリリックを「意味不明」「日本語の語法がおかしい」と批評する評論家やマスコミに対して、「そんなもん、ただの歌詞じゃねえか」と言い放った。だが、評論家もマスコミも全員が桑田に対して悪意を持っていたわけではなかっただろう。おそらく彼らは知りたかったのだ。なぜ、明らかにノリ優先でつけられた歌詞が、こんなにも心に響くのかを。

 ミドリの後藤まりこ(ボーカル/ギター)が綴る歌詞も、桑田と通じるところがある。彼女の歌詞は、歌詞カードを読んで理解する類のものではない。むしろ字面だけだと、曲によってはグロテスクなものもある。だが、ひとたび音楽として肉体を得た彼女の言葉は、胸の奥底をピンポイントで突き刺す威力を持つのだ。

 後藤まりこは実はものすごく普通のことしか歌っていない。「あたしをもっと大切にして」と言う。「お願い一人にせんといて」「ワガママいっぱい聞きなさいよ」と言う。「あたしはあんたとセックスがしたい」と言う。過激さでもグロテスクでもなく、誰もが抱く普通で、切実で、ピュアな願いが彼女の歌詞の本質だ。

 だがそれを現実に口にするのは難しい。切実であればあるほど、ピュアであればあるほど、断られるのが怖い。恥もあるし、「寒い」と思われたくない見栄もある。“普通”であるはずの気持ちは、結局は少女漫画や恋愛映画のなかで仮託されるしか行き場を持たないのだ。

 その欺瞞をせせら笑うように、後藤まりこは「セックスがしたい」と叫ぶ。激しく鳴らされる楽器は、彼女のプリミティブな衝動そのものだ。そして、意味よりも音へのノリを重視して紡がれた歌詞だからこそ、言葉は爆音の奔流と一体となって、感情そのものを叩きつける。喉の奥から絞り出されるような彼女の声に、心を覆っていたカバーは外されて、思わず涙が出そうになる。


 この『セカンド』はタイトルの通りミドリのセカンドアルバムにあたる。現時点での最新のフルアルバムは、サードの『あらためまして、はじめまして、ミドリです。』(その後1枚ライヴアルバムがリリースされている)。完成度の点ではサードが上だが、後藤まりこの強烈な才能が荒々しい形のまま録音されているのは『セカンド』の方だ。

 『あらためまして~』はジャケットのインパクトがすごい。theatre project BRIDGEの前回公演『アイラビュー』の準備期間、チラシ制作の打ち合わせの席上で、僕が「こんな感じがいいんです」とデザイナーさんに提示したのは、このサードのジャケットイラストだった。

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