Simon & Garfunkel 『Sounds of Silence』
美しくも生々しいハーモニーが
胸の奥を震わせる
胸の奥を震わせる
10年近くも前、友人と二人で夜中にドライブをしていたときのこと。カーステレオから流れてきたその曲に、僕らは延々と続けていたお喋りをやめて、聴き入った。「サウンド・オブ・サイレンス」だった。
「サウンド・オブ・サイレンス」を聴いたのは、そのときが初めてではなかった。むしろ何度も何度も、数え切れないくらい聴いていた曲だ。それなのに、まるで初めて聴いたかのような新鮮な衝撃があった。心の奥底がブルブルと震えて止まらなかった。
『サウンド・オブ・サイレンス』はサイモン&ガーファンクルのセカンドアルバムである。リリースは1966年。先行シングル「サウンド・オブ・サイレンス」とこのアルバムの大ヒットにより、彼らはトップアーティストの仲間入りをする。
その後70年に5枚目のアルバム『明日に架ける橋』をリリースして解散するまで、活動期間は短いものの、「ミセス・ロビンソン」「ボクサー」など、彼らの残した名曲は枚挙に暇がない。
81年、彼らはニューヨークのセントラルパークで一夜だけ復活ライヴを行う。その時の観客数がすごい。53万人である。彼らだけで、あのウッドストック・フェスティバルを上回る観客を集めたことになる。
サイモン&ガーファンクルの楽曲にはフォークやブルース、ボサノヴァなど、さまざまなアレンジがあるが、その真髄は二人のハーモニーだ。
彼らのハーモニーはアカペラグループのそれとは異なる。アカペラは声を音符に還元し和音として構築する、ある種職人的でストイックな音楽であるのに対し、サイモン&ガーファンクルのハーモニーはどこか人間臭い。耳元で語りかけられているかのような生々しさがある。以前、アイルランドの女性コーラスグループCeltic Womanが「スカボロ・フェア」をカバーしたことがあったが、ハーモニーの完成度が高いばかりで、サイモン&ガーファンクルが表現していた、あの寒々しいほどの寂寥感は希薄だった。
彼らのハーモニーは美しいと同時に、どこかザラついていて、胸の奥をひっかく。だからこそ、50年近く経った今でも「サウンド・オブ・サイレンス」は心を震わせる。
現在、サイモン&ガーファンクルは数種類のベスト盤が出ており、「入門編」には事欠かない。だが、もしそこで気に入ったなら、是非オリジナルアルバムで聴いて欲しい。アルバムごとに雰囲気が異なり、ベスト盤では味わえない聴き応えがある。
また、彼らはライヴでの演奏も素晴らしい。僕はスタジオアルバムの音源よりもライヴの方が個々の楽曲のもつ風合いが感じられて好きだ。前述のニューヨークで行われた復活ライヴは『The Concert in Central Park』というアルバムにほぼ全曲収録されている。オープニングに演奏した「ミセス・ロビンソン」は鳥肌が立つほどかっこいい。