the cranberries『everybody else is doing it, so why can’t we?』
ボーカル、ドロレスの個性が詰まった
クランベリーズのファーストアルバム
クランベリーズのファーストアルバム
アイルランドのバンド、クランベリーズのファーストアルバム。リリースは1993年。
アイルランドは北海に浮かぶ小さな国だが、世界のミュージックシーンにおける存在感は大きい。代表的なアーティストを挙げてみても、U2、エンヤ、セネイド・オコナー、クランベリーズ、コアーズ、さらに古くはヴァン・モリソン(ゼム)など、そうそうたる面子だ。
だが、彼らのセールスの規模だけを指して、存在感は大きいと書いたわけではない。アイルランドのアーティストには、アイルランド的、としか形容しようのない独自のセンスがある。そして、この独自のセンスが、ときに世界のミュージックシーンを大きく牽引する役目を果たしてきた。
このアイルランド独自のセンス、というものを説明するのは難しい。例えば、彼らにはサウンド的な面での強い共通点があるわけではないのだ。なので、「こういうのがアイルランドサウンドだ」とは示しづらい。共通するのは、それぞれのアーティストがイギリスにもアメリカにもない、独特の「アク」のようなものをもっている点だ。
ラジオやMTVでいろいろな曲が流れてくる。そのなかでフッと気になる曲がある。好きか嫌いかは別として、なんだかこのアーティストはどこか違うぞ、と思う。気になって調べてみるとアイルランドのアーティストだった。アイルランドとの出会い方はこういうパターンが多い。
アイルランドのアーティスト同士には共通点はない。だが、同ジャンルの他の国のアーティストと聴き比べると、どこかちょっと違う。その「ちょっと違う」感じ、メインストリームからの微妙な距離感が、アイルランド的なのである。
今回紹介するクランベリーズで言えば、ボーカルのドロレス・オリオーダンの歌声がなんとも独特だ。彼女の歌い方は非常に特徴的で、裏声と地声の境界線を絶えず行き来するような、不安定な響きがある。その下手と紙一重の危うい感じは、しかし同時に深い憂いを込めた祈りのようにも聴こえる。こういう歌い方を一体どういう経緯で会得したのか、ちょっと想像がつかない。
ロックのボーカリストには、誰が聴いても「上手い!」と思うような歌い方をする人は、あまり多くない。それは下手でも通用するという意味ではなく、そもそも巧拙を超えたところにロックというジャンルの味わい方があるからだ。ドロレスのボーカルは、そんなロックの魅力を改めて教えてくれる。
もちろん、クランベリーズの魅力は彼女の歌声だけではない。多彩な音色を鳴らすギター、変則的かつメロディアスなドラムとベース。さらに鍵盤やストリングスなども効果的に使われており、ファーストアルバムながらもすでにかなり洗練されている。楽器がこってりと絡み合いドロレスのボーカルを支えることで、単なる「歌」に陥ることなく、全てがクランベリーズというバンドの「曲」として成立している。
2枚目、3枚目になると、かなりオルタナ色が強くなるのだが、このファーストはポップであり、個人的にはドロレスのボーカルと曲のマッチングはこのアルバムが一番だと思う。彼らの代表曲「Dreams」もこのアルバムに収録されている。