都市風景をなぎ払い、永遠をあぶり出す
相対性理論の壮大な挑戦

 話題のバンド、相対性理論の2枚目となるアルバム。

 結成は2006年というから、まだ生まれたてのバンドと言っていい。07年にリリースした5曲入りミニアルバム『シフォン主義』が話題となり、翌年には再発売。自主制作盤ながらタワーレコードのインディーズチャートで1位になったり、08年の年間ベストアルバムセレクションに選ばれたりと、人気に火がつく。そして09年1月、満を持してリリースされたセカンドアルバムが、この『ハイファイ新書』だ。

 メンバーは、やくしまるえつこ(ボーカル)、真部脩一(ベース)、永井聖一(ギター)、西浦謙助(ドラム)の4人。だが素顔を一切露出していないため、顔はおろか年齢すらよくわからない。曲はすべてベースの真部が手がけている。

  チャンネルをテレ東に リモコン持ったら速やかに
  フルカラーのまたたきが ブラウン管からあふれだす

 
 アルバム1曲目<テレ東>の冒頭の歌詞である。日常的で無機的な単語、つまり詩的言語とは正反対の言葉を組み合わせて作られた歌詞を、ボーカルやくしまるえつこが感情を込めないウィスパーボイスで歌う。一口で言えば非常にサブカルチャーな匂いの強いサウンドで、初めのうちは単に奇を衒っただけのよくありがちなバンド、と見なしてしまう。

 だが、2回3回と聴いているうちに、なんだかクセになってくる。サブカルというだけで終わってしまう凡百のバンドとは、どこか違う。

  わたしもうやめた 世界征服やめた
  今日のごはん 考えるのでせいいっぱい
  もうやめた 二重生活やめた
  今日からは そうじ 洗濯 目一杯   <バーモント・キッス>


 とにかく歌詞世界は全曲こういった具合である。だが、一見すると支離滅裂に見える言葉の羅列からは、聴き進むにつれて、ある情感が湧いてくる。

 一つひとつの単語はいわば、高層ビルや行き交う人の群れ、駅や道路といった無機質で刹那的な都市の風景だ。過剰ともいえる言葉の羅列は都市風景を次から次へと映し出し、やがてホワイトアウトするように全てが崩れ去る。そして浮かび上がるのは、永遠というキーワードだ。大量の無意味が逆に意味を生み出すように、刹那的風景の氾濫の中から、永遠という名の風景があぶり出されてくる。
 
 抑制の効いたハイファイサウンドも、やくしまるのウィスパーも、全ては永久なるものへの憧れに聴こえる。


 『シフォン主義』もこの『ハイファイ新書』もどちらもオススメだが、質は圧倒的に『ハイファイ新書』の方が高い。逆に言えば相対性理論はわずか2枚目ですでに相当な高い領域へ片足を踏み入れたことになる。研ぎ澄まされた『ハイファイ新書』を先に聴いてから、荒削りだが勢いのある『シフォン主義』を聴く、という順番がいいかもしれない。

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