Mates of State 『Re-Arrange Us』
ポップなメロディ&ハーモニーを
ロックのビートに乗せて
ロックのビートに乗せて
米サンフランシスコ出身の男女2人組、メイツ・オブ・ステイト。結成は1997年というから、すでに10年以上のキャリアを持つ中堅アーティストである。2008年にリリースされた本作は、彼らの5枚目のアルバムにあたる。
決してメジャーな存在ではないけれど、だからこそおすすめしたい。コリ・ガードナーの奏でる鍵盤と、ジェイソン・ハメルの叩くドラム。たった2種類の楽器構成でありながらも、カラフルでぶ厚いサウンドを奏でる素敵なバンドである。
2人編成というのは、バンドの構成単位としては最も小さいものだが、決して珍しいわけではない。ホワイト・ストライプスしかり、初期ストレイテナーしかり。
すごいなあと思うのは、多少のサポートやレコーディングでのカバーはあるにしても、基本的に2人のまま、楽器2種類のままで「バンドサウンド」にしてしまうところだ。ホワイト・ストライプスなんて、ギターとドラムしかないという“いびつさ”を逆手にとって、思いっきりゴリゴリの、むしろ多人数バンドよりも芯の太いロックサウンドを奏でるからカッコイイ。
メイツ・オブ・ステイトも大半の楽曲を2人だけの音で構築している点で紛れもなく「バンド」だ。ただし、ホワイト・ストライプスがギターとドラムだけに音を凝縮した、いわば削ぎ落としの音楽であるのに対し、メイツ・オブ・ステイトはいかに2人だけで多彩な音を表現するかを発想の原点として、シンセサイザーの導入や折り目正しいハーモニーなどで、丁寧に一枚一枚サウンドを上から塗り重ねている。
特にコリ・ガードナーはそれまでオルガン専一だったのをやめて、このアルバムからピアノ、キーボードなどを使用するようになり、バンドの音色の幅を一気に広げた(そういう意味では前作のアルバムはアコースティックすぎて物足りない)。CDで聴くといくつもの種類の音があって、本当に2人なのか?と思うのだが、ライヴの映像を見ると、左手がキーボードでベース音を刻み、右手がピアノで和音を弾き、といった具合に本当に彼女一人で賄っていた。なおかつボーカルもとるのだから、驚くべきDIY精神である。
歌のメロディは素朴で、どこかノスタルジック。コリの張りのある歌声に、ジェイソンのハモリが常に寄り添う。この2人、プライベートでは夫婦であり、バンドのリハーサルは子育ての合間を縫って行われているそう。そんなエピソードによる先入観かもしれないが、どんなスタイルの曲でもメイツ・オブ・ステイトはなんとなく全体的に、ほんわか温かいのだ。男女のデュオという点で単純に連想したのだが、音の手触りはカーペンターズに近いかもしれない。
おもしろいのは、ポップな歌メロや温かなピアノを乗っけているジェイソンのドラムが、かなりロックなところである。決して激しいわけではないし、手数も少ないのだが、叩く音一つひとつが重くてハッキリとしている。しかも彼自身のハモリと同じように、ボーカルにピタリとくっついて、曲の展開やメロディの調子が変わるたびに細かくビートを変えるのだ。
メロディはシンプルできれいだし、しかもハモっていたりして基本的にはアナログなのだけれど、ロックなドラムがノリの良さを生んでいて、心地よい耳ざわりは残しつつ、どの楽曲も刺激的で聴き応えのあるサウンドに仕立てている。カーペンターズがオルタナになったらこうなる・・・と言ったら逆に伝わりづらいだろうか。
楽しい曲、優しい曲、心地いい曲、すなわち「ポップ」な音楽を愛する人なら、この『Re-Arrange Us』はきっときっと気に入るはず。