だんだん耳から離れなくなる
“ひねくれ者”のエレポップ

 前項メイツ・オブ・ステイトに引き続き、今回紹介するのも2人組バンド。2006年に英マンチェスターで結成された、ザ・ティン・ティンズ。

 小さなプライベートパーティーなんかを会場にライヴをしたりと、初めはかなりインディーズなところで活動を開始したところ、あれよあれよと言う間に人気が広がって、07年には英国でメジャー契約、さらには米国のリック・ルービン(ビースティ・ボーイズやレッチリを手がけた音楽プロデューサー)から直々のオファーを受け、ティン・ティンズは結成してわずか1年で英米2カ国別々に原盤契約をするという、異例の形でのメジャーデビューを飾った。NMEなどの各紙も彼女たちを大きく取り上げ、最近では「Brit Award 2009」(英国のグラミー賞、今回は以前本稿で紹介したダフィーが最多部門受賞した)でも、U2やコールドプレイとともにパフォーマンスを行った。

 そんなティン・ティンズのファーストアルバムがこの『WE STARTED NOTHING』。ジャケットだけ見ると(ちなみに写真は英国版。米国版は2人の写真が載っていないシンプルなもの)、パンクやガレージっぽいけれど、実際の音は全然違う。

 エレポップと類される彼女たちの音楽は、弾けるようなポップ&ロック。勢いのある曲が多いので、サビだけ聴くと最初はティーンズポップのような印象を受けるのだが、アルバムを通して聴くと、既成の枠には収まるまいとする彼女たちの“ひねくれ”が随所に見られる。

 言葉で説明すれば、ダンスミュージックっぽいクールなビート感の上に、ギター・ドラムという生楽器とエレクトリックな音色を同時に乗っけた、というだけなのだが、これが不思議と微妙にありそうで微妙にないようなテイストなのだ。そんな微妙なところを探して突いてくる“ひねくれ”がフックになって次第に耳から離れなくなる。知らず知らずのうちに魔法にかかったような感覚が気持ちいい。

 そもそもデビューアルバムでありながら、タイトルを『WE STARTED NOTHING』とつけるあたりからしてひとクセありだ。実は2人とも、以前に別のバンドを組んでおり、レコード会社と契約まで結んだものの、形だけのまま干されてクビになってしまった経歴を持つ。自分たちは“新人”ではないという気骨が、「私たちは別に何かを始めたわけじゃない(元からやってたよ)」というメッセージから窺い知れる。

 メンバーはボーカルのケイティ・ホワイトと、ドラムをはじめ何でも弾けるマルチプレイヤーのジュールズ・デ・マルティーノ。特にケイティは、ブロンドでスタイルもよく声もキュートなのに、その目はいつも全てを見透かすようにクールで、わざとピッチを外したような歌い方をする、鼻っ柱の強いフロントウーウーマンだ。デビューシングル<THAT’S NOT MY NAME>では、たくさんの女性の名前を連呼しながら、「それは私の名前じゃない」と歌い続ける。

 甘っちょろい恋の歌など皆無。ケイティの歌はいつも自立を促す曲ばかり。彼女が口にする“YOU”とは、 “愛しい貴方”ではなく、常に“諸君!”というニュアンスなのである。

 ひねくれに見えるのは、実のところ強い自負心に裏打ちされた彼女の強烈なポジティビティなのだ。最近の草食男子たちから見ればきっと眩しくて仕方ないだろう。


デビューシングル<THAT’S NOT MY NAME>PV(英国版)

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