ロック界の学級委員U2
スケール感衰えぬ最新アルバム

 巨大なエンジンを積んだ超重量級の戦車が、排気音を大地に響かせながら近づいてくる、そんな感じだ。

 『JOSHUA TREE』の<WHERE THE STREET HAVE NO NAME>にしても、『ALL THAT YOU CAN’T LEAVE BEHIND』の<Beautiful Day>にしても、このバンドのアルバム1曲目はいつも圧倒的なスケール感で始まる。2009年2月にリリースされたニューアルバムである本作。その1曲目、タイトル曲でもある<NO LINE ON THE HORIZON>を聴いたときも、「これぞU2だ!」と嬉しくなってしまった。

 世界中のメディアとリスナーがその一挙手一投足に注意を払う、ロック界の巨人U2。しかし、「大物」と呼ばれるアーティストは数多いるものの、サウンドに込められたスケール感という点では、U2は他の追随を許さない。4人とももうすぐ50歳というのに、このおじさんたちは世界を丸ごと呑み込もうとするかのようにエネルギッシュで貪欲だ。

 U2はものすごく、「真面目」なバンドである。それは、例えばボノの一連の慈善活動であったり、戦争や貧困を題材にした曲を数多く歌ったりといった表層的なアクションを指して言うのではない。それらはあくまで彼らの真面目さの結果と見るべきだろう。U2の真面目さとは、音楽によって世界とつながろうという愚直なほどストレートな姿勢のことであり、しかもそれを30年もの間一貫して崩さないタフさのことである。

 彼らの曲には恋の歌もあるし、家族の歌もあるし、なかには抽象的で何を言っているのかさっぱりわからないような歌もある。だがその根底には、音楽で世界を変えようと考えるほど楽天的ではないにしても、少なくとも音楽を現実世界との交感によって作り上げようという意志がある。彼らにとって音楽は快楽原理で鳴らすものではなく、また職人にのみ理解しうる技巧品でもなく、世界の現実とコミットするための手段なのである。

 正直で頑固で、しかもロマンチスト。真面目というよりも、“生真面目”というニュアンスに近いのかもしれない。だが、彼らの持つ巨大なスケール感は、そんなクラスの学級委員のような生真面目さの表れなのである。


 この『NO LINE ON THE HORIZON』はU2の通算12枚目のアルバム。前作『HOW TO DISMANTLE AN ATOMIC BOMB』から、およそ4年半ぶりの新作である。

 話題作なのですでにいろいろな場所で語られているのだが、僕の感じた印象としては、前作『HOW TO〜』の雰囲気に近いかな、という感じ。ただ、やはりと言うか、2作ぶりにプロデューサーに復帰したブライアン・イーノのカラーが強く出ているように思える。彼がサイケ・ロックを作ったらこうなりました、というようなアルバムである。

 だがカラフルな音色とは裏腹に、全体を覆う雰囲気はなんとなく重たい。歌詞に大きな変化はないものの、音の密度が濃くて、厚い壁が四方に屹立しているような、ハードな空気がある。ロックンロールのうち、前作が「ロール」の部分が強く打ち出されたアルバムだとしたら、本作は反対に「ロック」的な志向性を持つ作品と言えるかもしれない。

 硬質な曲が目立つなかで、今回唯一のセルフ・プロデュース曲であるラスト・ナンバー<NO LINE ON THE HORIZON 2>は、ドラムとベースがパワフルに炸裂する、バンドとしてのU2が体感できるロック・チューンだ。

 それにしても『NO LINE ON THE HORIZON』だなんて、なんて“マジメ”なタイトルなんだろう!


シングル・カットもされた<GET ON YOUR BOOTS>のPV

タイトル曲<NO LINE ON THE HORIZON>。こちらはスタジオでのライヴ風景

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