少女から母になっても
ずっと愛を歌う人

 良いアルバムというのは大体1曲目で決まる。「この先に一体どんな世界が広がっているのだろう」という予感と緊張感。見知らぬ土地に降り立ったときのような気持ちをいきなり1曲目で味わえれば、大体そのアルバムは名盤なのである。

 1曲目はダメだけどアルバム途中には佳曲良曲が揃っている、というケースもある。僕のCD棚にも「2曲目から再生するアルバム」、「8、9曲目だけをリピートするアルバム」なんていうのがたくさんある。だがアルバムというのはやはり最初から最後まで通して聴いてこそ感動が味わえるものであり、評価の基準もまずはそこにある。特定の曲だけ聴いてしまうのは、あくまでその「曲」が良いということであって、「アルバム」として良いわけではないのだ。だからこそアルバム1曲目には、独自の空気感を醸し、2曲目3曲目へと駆り立てる“風格”のようなものを期待したいのだ。

 というようなことを改めて実感したのが、先週リリースされたYUKIの4年ぶりのアルバム『うれしくって抱きあうよ』。このアルバムの1曲目<朝が来る>は、歯切れの良い印象的なストリングスとともに、YUKIが“私はこの広い世界を知らなすぎた”と歌い始める、予感と緊張感に満ちた、まさに幕開けに相応しい曲なのである。開始1分弱で「このアルバムは良い!」という確信を抱かせる。

 事実、全13曲どれもクオリティがちょっと尋常じゃないくらいに高い。全部シングルにしてもいいくらいにガツンとくる。いや「ガツン」という表現はYUKIには似合わないか。グッとくる。

 だが曲のクオリティが高いのは、これまでのYUKIの楽曲ですでにわかっていたことだ。何が素晴らしいかって、アルバム全編にわたって曲の持つ色合いや肌触り、温度感や見えてくる景色が統一されているところである。曲と曲が合わさって一編の物語になるようなつながり感と濃密感が味わえるときほど、アルバムを聴いていて「いいなあ」と思える瞬間はない。もちろんそんなものは、聴き手の思い込みなのかもしれない。だがそれがたとえ思い込みだとしても、思い込ませるだけの力がこのアルバムにはある。素晴らしい!

 では、このアルバムが織り成す物語とは何なのか。1曲目は前述の通り<朝が来る>。そしてラスト13曲目は<夜が来る>。YUKIは朝から夜までの1日に人の一生を重ね合わせている。人生は短く儚いし、思い通りにならないことも後悔することも山ほどあるけれど、人を愛することは素晴らしい、生きることは素晴らしい。そんな、色んなものをひっくるめて全部肯定していこう!という意志が歌われている。文字に直すとどうも味気ないが、このアルバムを聴いているとそういう温かい気持ちが実際に胸に湧いてくるのが不思議。「うれしくって抱きあうよ」、ものすごくいいタイトルだと思う。

 YUKIはすごく「愛」という言葉が似合うシンガーだ。聴き手を照れ臭くさせることなく、また男女の区別なく、実に自然にふんわりと「愛」というイメージを届けてくれる。

 彼女はバンド時代からずっと愛を歌ってきた。だが愛の質はソロに入ってから明らかに変わった。かつては恋愛という枠に限定された愛であったのが、ソロに入り、家族も友人も見知らぬ人もひっくるめた広くて大きな愛というものを歌い始めたのである。JUDY AND MARYからYUKIという軌跡は、少女が大人になって母になるという、一人の女性が成長していく姿そのものである。


アルバムタイトル曲<うれしくって抱きあうよ>PV

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