この人たちはどうしてこんなにも
僕の気持ちがわかるんだろう


 リバティーンズの活動期間は短い。デビューは2002年で04年には活動を休止している。その間発表されたアルバムは『up the bracket』(02)とこの『THE LIBERTINES』(04)のわずか2枚。にもかかわらず彼らの与えたインパクトは絶大で、00年代のロック史を語る上で欠かせない存在である。

 バンドの中心はピート・ドハーティとカール・バラー。共にギターを担当し、ボーカルも分け合っている。曲も2人が共同で書いている。英国バンドで、フロントマン同士がタッグを組んで作曲しているところから、このドハーティ/バラーは「21世紀のレノン/マッカートニー」などとも呼ばれている。多分に漏れず2人の仲の悪さも有名で、ステージ上での殴り合いは日常茶飯事。おまけにドラッグ問題なども絡んでゴシップ誌にも散々話題を振りまいた。ただ、時代錯誤的とも言える素行の悪さや暴力性が、歴史化してしまったロック本来のアンダーグラウンドさや猥雑さを感じさせ、00年代のリスナーには逆に新鮮に映ったのかもしれない。ロックの持つ凄みのようなものをリバティーンズは“地”で持っていたのである。

 実を言うと僕は初めから彼らの音楽が好きだったわけではない。00年代のギターロックバンドの代表格としてよくリバティーンズと共に並べられるのがストロークスだが、僕はストロークスの方が圧倒的に好きで、リバティーンズの方はピンとくるところが少なく、しばらく放置していた。彼らの音楽がようやく僕の耳の奥にまで届くようになった頃、リバティーンズというバンドはすでになく、「もったいない」という思いがした。

 僕とリバティーンズとの架け橋となったのは、パンクだった。僕は彼らの音楽を聴くようになる直前、パンクにどっぷりと浸かっていた。よくリバティーンズは伝統的なギターロックの復権を担ったバンドとして語られ、実際英米を中心としたガレージロックリバイバルの流れの中で登場しているのだが、彼らの本質はギターの音の強度ではなく、前述のような退廃性にある。ツインギターの雑然とした絡み合い方、投げやりなボーカルと勝手自儘なハーモニー、「おれはどこへも行けない」「もう音楽さえ聞こえない」といったどん詰まりの歌詞、そして暴力的なパーフォマンスからスキャンダラスなキャラクターまで含めて、リバティーンズの音楽には深い混沌と怒りに満ちている。いわゆる「パンクロック」のイメージからすると音楽的にはだいぶ垢抜けているが、彼らは紛れもなくパンクだ。

 以前、ある雑誌で、リバティーンズのファンの女の子が「私の人生なんて最低でクソみたいなものだけど、でも彼らの音楽を聴いているとそれが特別なものだって思えるようになるの」と話していたのを読んだことがある。僕は彼女ほど切羽詰って自分の人生を「クソ」だとは思っていないけど、それでもごくたまにどうしようもなく嫌な気持ちになる時がある。何もかもが嫌で、手元に爆弾でもあったら躊躇なくスイッチを入れてしまいたくなるような、矛先のない怒り。何も手につかなくて、湿ったシーツの上でただ無気力に身を委ねているしかない。そんな時にリバティーンズを聴くと、少しだけ慰められたような気持ちになる。それは、彼らの音楽があらゆる否定を重ねながらたった一つの肯定を描こうとしているからだ。街中を根こそぎ破壊した後で、一輪の花を植えるように。昔、甲本ヒロトが「パンクロックは優しい」と歌っていたけれど、リバティーンズを聴いているとよくわかる。

 そんなリバティーンズは今年まさかのリユニオンライブを行った。10月、イギリスのレディング・フェスティバル。演奏は若干カタさがあったものの、数万人のオーディエンス、とりわけ10〜20代の若いファンたちが彼らの一曲一曲を愛しそうに大合唱している光景は感動的だった。



 ・・・というわけで、ずい分と長く空いてしまいましたが、またぼちぼちとブログを書いていこうと思います。

 5月に最後の更新をした後、僕はtheatre project BRIDGEの10周年パーティーの準備、メモリアルブック『MY FOOT』の編集、そして10周年記念公演『バースデー』と、バタバタした生活を送っていました。パーティーと『MY FOOT』の準備は去年の公演が終わってすぐに始まりましたから、久々に1年中劇団の仕事に携わっていました。

 僕らはこの5、6年、ずっと「結成10周年までは何が何でも続ける」を合言葉に頑張ってきました。キツかったフルマラソンのゴールテープを切った瞬間はきっとこんな気持ちなんだろうなあ、なんてことを今思っています。これからどういう形でBRIDGEを続けていくか、現在メンバー全員で模索中です。

 パーティーに来てくれた方、『MY FOOT』を読んでくれた方、そして『バースデー』を観てくれた方、どうもありがとうございました。本当にありがとうございました。

 旗揚げ以来ずっと、公演パンフレットに「終演後のごあいさつ」という文章を書いてきました。けれど今回の『バースデー』では、10年間で初めて、この「終演後のごあいさつ」を掲載できませんでした。「書こう、書こう」と、初日の朝まで机に向かっていたのですが、ただの一文字も書けなかったのです。

 ずっと前から、10周年の公演パンフレットに何を書こうかを考えていました。10年目という節目に僕は一体何を語るのか、僕自身が楽しみにしていました。けれど、いざその時を迎えると、頭が真っ白になって、一向に言葉は浮かんできませんでした。思いは溢れるほど詰まっているのに、そのどれもが「10年目を迎えた」というたった一つの事実の前には、取るに足らないことのように思えたのです。もう少し時間が経って、僕が思いを言葉に直す冷静さを取り戻せたら、その時は折にふれてこの場で書いていけたらいいなと考えています。

 旗揚げ当初は20歳前後の劇団だったのが、(当たり前ですが)今では30歳前後の劇団になりました。劇団を続けること――それ自体が僕らには試練になってきました。

 でも、辞めません。思うように稽古ができず、みっともない姿を舞台で晒すことになるかもしれません。お客さんが一人、また一人と離れていってしまうかもしれません。運良く続けられたところで結局先細りになり、「あの頃は良かった」などとぼやく瞬間が来るのかもしれません。でも、辞めません。辞める方が楽だからこそ、辞めません。

 ・・・なんてかっこいいこと言っても、終わる時は終わるものです。アマチュアだろうがプロだろうが、集団なんて驚くほどあっけなく、ささいなきっかけで終わるものです。この10年間だって、そういうギリギリな瞬間がなかったわけではありません。結局、そういう緊張感を抱えたまま、やっていくしかないだろうと思います。

 『バースデー』の開演前の劇場ではずっとリバティーンズを流していました。客席の後ろでリバティーンズを聴きながら、僕はずっと自らを奮い立たせていました。「ここからだ、ここからだぞ」と。


レディング・フェスティバルで行われたリユニオンライブより2曲紹介。どちらもリバティーンズの代名詞のような曲です
ファーストアルバム1曲目に収録されている<vertigo>

セカンドアルバムの1曲目<Can’t Stand Me Now>

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