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『リボルバー』

 人生で初めて僕が、みんなで何かを作る、ということを体験したのは、小学1年生の「砂の工作」の時だろうと思います。
 海まで歩いて3分の海沿いの小学校でした。毎年夏に全校生徒で砂浜へ行き、各クラスで砂を使って何か大きなものを作る、というのが「砂の工作」という行事でした。
 僕のいた1年3組が作ったのは確か、大きな海ガメだったと思います。隣の6年生のクラスが作った砂のスフィンクスの迫力は今でもよく覚えています。
 次の日になっても、その次の日になっても、砂浜には僕らが作った砂の生きものや建物が、波で形を崩されつつも、残っていました。
 
 「高校時代のような恋愛がしたい」という話を、今公演の稽古中にメンバー数人と酒の席で語ったことがありました。
 theatre project BRIDGEの母体となった湘南高校という学校は、僕の小学校ほどではないですが、やはりその名の通り海の近くにありました。
 午後の授業をサボッてこっそりと校門を抜け、15分ほど頑張って漕げば、2人乗りの自転車は、潮風のあたる海沿いの遊歩道へとたどりつきます。
 僕らは2人で砂まじりのコンクリートに腰を下ろし、砂浜を全力疾走する犬たちや、黒い点になって見える遠くのサーファーの姿をぼんやりと眺めます。そしてそのまま、太陽が富士山の麓へと沈むのを待つのです。

 僕は物心ついてから約20年間、海の近くで暮らしてきました。
 しかしここ数年、海を眺める時間があっても、僕は気付くと大きな海ガメや、高校時代に見た潮でベタついた夕日を探してばかりいます。
 あの時の景色はどこにあるのかと探してばかりいて、目の前の海を見ているようで、見ていません。僕は記憶の中の海との対比でしか、目の前にある現在の海を眺められなくなっているのです。


 今日は『リボルバー』の最後の稽古でした。
 道の途中、車の中から僕は、社会人になって今はもう参加ができなくなってしまったある劇団メンバーの姿を見かけました。
 赤信号の右側に、彼が働いているお店があり、制服を来た彼の背中が、レジの中に見えました。
 その背中を僕は、彼と共に芝居をしていた時の記憶と対比して見つめました。
 やがて信号が青に変わり、僕は彼のいない稽古場へ向けて、アクセルを踏みました。

 theatre project BRIDGEの前回公演『眠りの森の、ケモノ』が終演したのは2003年12月20日。あれから2年余りが過ぎました。
 あの日から今日までのことをここで書くのは、とても野暮なことのように思います。
 記憶は常に、語られることを要求しています。しかし僕はもう、記憶を語るのをよそうと思うのです。
 砂浜に寝そべった海ガメを探すよりも、制服を着て眺めた夕焼けの海を思い出そうとするよりも、僕は明日の話を紡げるようになりたいと思っています。
 だから『眠りの森の、ケモノ』でカーテンコールのごあいさつをした彼の姿を、声を、僕は今そっと、忘れてしまおうと思います。

 本日はご来場いただき、本当にありがとうございました。
 またお逢いしましょう。

| 2006,01,20,Fri 2:37 | theatre project BRIDGE | comments (x) | trackback (x) |

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