「バンドであること」を
考えさせられるバンド

 今年2月にリリースされた東京事変の新作『スポーツ』。前作『娯楽』も相当良かったが、今作はそれをさらに上回る、現時点での彼らの最高傑作になったと思う。

 『スポーツ』は東京事変にとって4枚目のアルバムだ。結果論ではあるが、東京事変のこれまでのキャリアは「椎名林檎+バックバンド」がいかにして「バンド“東京事変”」になるかのプロセスだったように思う。イメージ的な面でもサウンド的な面でも、初期の2枚、『教育』『大人』はまだ椎名林檎のソロプロジェクトという感が強かった。彼女の個性をバンドというフォーマットに取り込むためには、相対的に椎名林檎のカラーを抑え、他のメンバーの存在感を打ち出さなければならない。そのために3枚目『娯楽』において取り入れられたのが、曲作りにおいて椎名林檎の役割を作詞のみに留め、作曲を他のメンバーに一任するという試みだった。

 そしてそれは成功した。椎名林檎の存在をキャラクターとしてではなく一個の歯車として、いわば“割り切って”機能させたことで、東京事変は5人のメンバーが均等かつ有機的につながった「バンド」に生まれ変わったのである。『娯楽』は椎名林檎のソロ時代からのファンには物足りなかったかもしれないが、僕などには彼女の色が薄まった分聴きやすかった。椎名林檎のボーカル力や個々のプレイヤーの個性など、点ではなく面で楽しめるアルバムだった。

 今作『スポーツ』においても、作詞・椎名林檎、作曲・他のメンバー、という手法は引き継がれている。印象としては前作よりもバンド向きな、よりグルーヴ主体の曲が増えたように感じた。特に<生きる><電波通信><雨天決行>など、キーボードの伊澤一葉が手がけた曲のかっこよさが目立っている。そういえば前作でも彼は<キラーチューン>という、文字通りキラーチューンな曲を作っていた。

 同時に、今回は椎名林檎も再び作曲者に名を連ねている。<能動的三分間><勝ち戦>がそれだ。2曲とも本アルバムのリード曲なので、事前にテレビやYouTubeで聴く機会があったのだが、その時は彼女の作曲だとは思わなかった。椎名林檎っぽくなかったのである。彼女が「東京事変」用のメロディメイクをするようになったのか、それとも5人のチームワークが彼女の個性をも「東京事変」に仕上げるほどに緊密なのか、それはわからないがいずれにせよ、すでに彼らには作曲者を選ばないレベルにまでバンドとしての力が満ち満ちているということなのだろう。

 ジャジーなのにパンク、ファンキーなのにフォーク、みたいな節操のないグチャグチャ感。なのにそれが下品にならず、洗練された都会的サウンドへと仕立ててしまうセンス。PVに見られるシュールな雰囲気などなど。『スポーツ』には「東京事変しかできない」、あるいは「東京事変しかやらない」と感じさせる、強いオリジナリティがある。一つのバンドが独自の、未踏の道へと分け入ったという点で、このアルバムは名盤の一つに数えられると僕は思う。

 それにしても、彼らのように自分たちが変化していく様を洗いざらい見せていくバンドと、それをドキュメンタリーを見るように、“目撃”といったニュアンスで追っていくリスナーという関係性は、常に「現在」が問われる音楽――ロックならではのものだ。結果としてサウンドやスタイルその他が変化するかどうかはさておき、現状に甘んじず絶えず高みを目指す姿勢を感じるからこそ、ロックには勇気をもらえるのである。


<能動的三分間>を演奏する5人

<勝ち戦>こちらはPV

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