The Beatles 『RUBBER SOUL』
ジョンとポール、2人の天才が交錯する
ビートルズ過渡期のアルバム
ビートルズ過渡期のアルバム
ビートルズの解散は1970年。
僕がビートルズを最初に知ったのは、音楽ではなく、映像だった。ビートルズを特集したテレビ番組か何かだったと思う。ライブ映像やレコーディング風景、4人の姿を収めたいくつもの古い映像がブラウン管に映し出されていた。多分、僕は小学生だったと思う。81年生まれの僕にとってビートルズは生まれたときから伝説であり、歴史的事件の如く映像に封じ込められた1つの記録だった。
映像を眺めながら、僕は彼らに対して大きく2つのイメージを持った。1つは前期のアイドルバンドとしてのビートルズ。もう1つは、後期のアーティスト然としたビートルズ。
ちょうどそれは、モノクロとカラーの違いだった。モノクロ画面の4人は揃いのスーツで演奏し、たくさんの女の子たちに追いかけられる。映像がカラーになると、4人はなにやらシリアスで複雑そうな歌を歌い、ひげなんかを生やしてちょっと気難しそう。2つのビートルズはあまりにかけ離れていて、当時の僕はずい分と怪訝に思った。
僕がいま最も好きなビートルズのアルバムはこの『RUBBER SOUL』。リリースは1965年。
『RUBBER SOUL』の1つ前のアルバムがアイドル映画のサントラ『HELP!』であり、1つ後のアルバムがスタジオワークをフルに活かし始めた『REVOLVER』である。アイドルからアーティストへ、ライブからスタジオへ、明快なポップソングから内省的世界観へ。まさにあのモノクロ・ビートルズとカラー・ビートルズの、ちょうど転換期にあたるこのアルバムが僕は一番好きなのだ。
このアルバムの魅力は、前後期2つのビートルズの両面を併せ持つ点にある。ただし、併せ持つといっても「半分ずつ」という意味ではなく、双方の良さが100%発揮されつつ、さらにそれが混ざり合っているのが『RUBBER SOUL』だ。
当時のビートルズは、バンドとしての新たなあり方を模索していた。年間にアルバム2枚とシングル4枚のリリース、さらに英米を中心として膨大なテレビ・ラジオ出演と取材、そしてライブと、デビュー以来続く過酷なスケジュールの反動から、1曲1曲に対してより作り込みをし、サウンドの完成度を高める方向へとシフトし始めていた。
そのアティチュードは次の『REVOLVER』で体現され、さらにそれが『Sgt. Pepper Lonely Hearts Club Band』という傑作へとつながっていくのだが、この『RUBBER SOUL』では凝った音作りを見せつつも、まだ初期の面影、すなわちライブバンドっぽさ、1発録りの勢いというものが残っている。この均衡は、ジョンとポール、2人のソングライターの実力がちょうど拮抗していることによって成立している。
初期ビートルズを牽引してきたジョンは、恋のときめきを歌うことから普遍的なテーマを音楽にすることへ関心の対象を移し始め、<NORWEGIAN WOOD(ノルウェイの森)>や<GIRL>といった静謐で美しい曲を作り、バンドの新たな方向性を指し示した。
そしてポールは、ブラックミュージックの呪縛から徐々に解き放たれて、ポップソングライターとしての才能を開花し始めた。<DRIVE MY CAR><I’m Looking Through You>といった楽曲は初期ビートルズの雰囲気を残す、バンド感溢れるポップソングである。
前述のように、4人は新たなバンドのあり方を模索し始めていた。このアルバムがそのような時期にあって中途半端にならず、“転換期のアルバム”として完成されているのは、ジョンとポール、2人の天才が同時にその才能を発揮しているからだ。『RUBBER SOUL』以前はジョンが強く、逆に以降はポールが強くなる。このアルバムはジョンからポールへとバトンが渡される、その一瞬に作られたのだ。
14曲全てが大好きなのだけど、強いて挙げるなら<IN MY LIFE>。中学生の頃からずっと聴き続けている曲。思い出深いのは<NOWHERE MAN>。歌詞の世界がまるで自分のことを言っているかのようで、何度も繰り返し聴いた。あまりに自分にフィットしていたので、そのままtheatre project BRIDGEの第4回公演『PATRICIA』では、クライマックスにフルボリュームで流した。
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