R.E.M. 『MUR MUR』
一人ぼっちなのは、
君だけじゃないんだ。
君だけじゃないんだ。
昨年後半にもっとも聴いたのが、先週紹介したザ・フー。そして今年に入ってから僕が一番聴いているのがR.E.M.(アール・イー・エム)だ。この『マー・マー』は彼らのデビューアルバムである。
R.E.M.は1980年にアメリカ南部、ジョージア州で結成された4人組のバンド。現在は一人抜けて3人だが、四半世紀以上経った今もバリバリの現役であり、2007年にはロックの殿堂入りを果たした。特に評論家やミュージシャンからの評価が高く、カート・コバーンやトム・ヨーク、デーモン・アルバーンなどをはじめ、多くの後進たちがR.E.M.へのリスペクトを口にしている。かの村上春樹もこのR.E.M.がお気に入りらしい。
とはいえ日本では、ニルヴァーナやレディオヘッド、ブラーたちに比べて、どうもあまり浸透していない気がするのだが、それはファンのひがみだろうか。
確かにあまりキャッチーなバンドではない。音が身体の奥底にまで沁み込むには、時間がかかるタイプのバンドだ。だが、一歩その世界に踏み込むことができれば、彼らの音楽はずっと一緒に寄り添える存在になりうるだろう。
R.E.M.はアルバムをリリースするたびに音楽性を明確に変えるので、人に勧める時には非常に迷うのだが、一貫して共通しているのが、どこか静かに漂う優しさだ。鼓舞するわけでもなく、かと言って安っぽく絶望を叫ぶわけでもなく、傷跡にそっと触れるような、極めてパーソナルな部分をギュッと抱きとめる包容力に満ちている。
この『マー・マー』がリリースされたのは1983年。前年にはあの『スリラー』が世界を席巻し、同年にはカルチャー・クラブの『カラー・バイ・ナンバーズ』がヴィジュアルカルチャーの到来を告げ、さらに翌年にはヴァン・ヘイレンが<ジャンプ>を収録した『1984』をリリースする。本来サブカルチャーであったロックが大衆娯楽へと変わっていくのが、ちょうどこの80年代前半だ。そんなエンターテイメント化するロックに馴染むことができず、その隙間にポツンと取り残されるしかなかったのが、このR.E.M.である。
シンプルなメロディラインやドラムとベースの早いビート感などに見られるパンクの影響と、米南部という土地柄なのか、カントリーミュージック的なアコースティックさが混ざり合ったR.E.M.の音楽は、奇妙で独特で、上記のような同時代のアルバムと聴き比べると、いかに彼らが異端であるかがわかる。
マイケル・スタイプの歌声は、英語圏の人でさえ歌詞が聞き取れないと言われるほどボソボソとして投げやりだ。それは当時の音楽シーンのどこにも居場所が見つけられないという孤独と怒りの表れであり、だからこそ自分の好きな音楽で自分の場所を手に入れたいという、ひたむきな祈りでもある。彼らの奏でる不安と憂鬱さは、だからこそ澄んだように優しく響く。
音楽シーンの隆盛から一定の距離を置き、アンダーグラウンドなロックを切り開いたR.E.M.。彼らの独自の進化の道は、やがて90年代初頭にニルヴァーナやレディオヘッドを生む「オルタナ」への扉をこじ開ける。
R.E.M.が初めてテレビに出演した時の映像。演奏しているのはデビュー曲<ラジオ・フリー・ヨーロッパ>。現在はスキンヘッドのマイケル・スタイプだが、まだこの時は髪の毛がフサフサしていて若々しい。
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