猛スピードで走り去った
ある高速車の記録

 日本のバンド、スーパーカーが2005年の解散直後にリリースしたシングル集。彼らがリリースした16曲のシングル全てが網羅されている。

 スーパーカーというと、松本大洋原作の映画『ピンポン』の主題歌<YUMEGIWA LAST BOY>のイメージが強いせいか、打ち込みメインのグループと思われがちだが、元々の彼らは純然たるロックバンド。キャリアを経るうちにサウンドが大きく変化したのである

 <CREAM SODA>や<LUCKY>など初期の頃はギンギンと耳鳴りのように響くギターロックを鳴らし、中期<LOVE FOREVER>や<FAIRWAY>あたりで徐々にエフェクトや打ち込みの導入などエレクトロへの傾倒を見せ始め、そして後期では<AOHARU YOUTH>や<BGM(プロデューサーは元電気グルーヴの砂原良徳)>といった、さらに電子的な要素を取り入れた楽曲を制作するようになる。

 元々初期の頃からエフェクティブな音楽への好奇心が見え隠れしていたものの、たった8年という短い活動期間のなかで、ロックに始まりながら、最終的にロックという単一の規格には収まらないオリジナルな世界観へと進化したスピードとその振れ幅には、この『A』を聴くと改めて驚かされる。

 メンバー自身もこのような激しい音楽性の変遷を予測できてはいなかったのではないだろうか。行き着くところまで行ってしまったので、ある意味解散は必然だったのかもしれない。


 スーパーカーのメンバーは4人。うち1人だけ女の子が混じっている。ベースのフルカワミキである。

 僕は彼らがデビューして間もない頃にビデオクリップを観て初めて知ったのだけど、女の子がボーカルではなくプレイヤーとして男に混じって演奏しているということが、当時高校生だった僕にはとても新鮮だった。

 だがフルカワミキの放つ強い存在感は、そういったフォルム上だけのものではない。彼女のコーラス(曲によってはメインボーカル)は、スーパーカーの大きな特徴の一つだ。

 彼女の歌声は典型的な“しゃべり声”。ボーカル中村弘二の低音で気だるい感じの歌声に、フルカワの「この人やる気ないんじゃないか?」と思わず心配になりそうな奇妙に力の抜けたコーラスが加わると、不思議な化学変化が生じて男性的でも女性的でもないような独特のフワフワした心地よさが生まれる。

 歌詞の大半を手がけるのは、リードギターのいしわたり淳治(現在チャットモンチーや9mm parabellum bulletなどのプロデューサー)。彼の書く歌詞には、愛や夢や未来の不安という、かなり甘くスイートなエッセンスが詰まっていて、ボーカルが男女どちらかに偏ればくどくなってしまいそうなのだが、中村・フルカワの両者によるコーラスはそれを見事に中和して、普遍的なリアリティへと昇華している。桑田佳佑だけでも歌としては成立するけれど、やはり原由子のコーラスがなければ“サザン”にはならない、そんな感じに似ている。

 刻々と進化するサウンドと、中性的で甘酸っぱい世界観。スーパーカーはいわゆる「ロック」的な硬く重さのあるバンドというよりも、柔らかくてつかみどころのない多面性を持つ不思議なバンドである。コアなロックファン層を中心に、未だに人気が衰えないのも頷ける気がする。同時発売されたシングルB面集の『B』と併せて聴けば、短くも濃密な彼らの足跡を味わえる。


初期の代表曲<LUCKY>。この曲では中村・フルカワがボーカルをきれいに半々に分け合っています

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