“ROCKは詳しいぜ”
甘いマスクがはずされた瞬間

 SOPHIAというセレクトは意外に思われるかもしれない。確かに彼らはなんとなく“チャラい”印象がある。実際初期の頃は、当時のいわゆるビジュアル系ブームに乗っかったアイドルバンドの一つに過ぎなかった。軟派に見られてしまうのは、その頃のインパクトが未だに尾を引いているからだろう。

 だが彼らは1999年にリリースしたこの『マテリアル』で当初のイメージを覆す。煙草、ヒゲ、刺青。インナースリーヴの写真に写った彼らの姿はジャンクで猥雑だ。そこにはビジュアル系という評価や期待を真っ向から拒否するような、ロックバンドとしての姿がある。これは、そのように進歩したというよりも、元々彼らが持っていたロックバンドとしての精神が表れたと見るべきだろう。

 心の内をありのままに綴ったようなセンシティブな歌詞。アナログもデジタルも片っ端から詰め込んだ実験的なサウンド。本作にはまるで、ようやく欲しかったおもちゃを買ってもらった子供のような瑞々しさがあるからだ。

 SOPHIAは実にしたたかだったのである。ビジュアル系ブームをキャリア実現のための手段と割り切り、甘いマスクの下に音楽への野心をじっと隠し続け、そしてこの6枚目のアルバムでついにその本性を露わにしたのだ。

 彼らが初めてさらけ出した本来の姿。それは傷だらけで臆病で、お調子者でずる賢く、そしてそんな自分を自覚してまたさらに傷ついてしまうような、ナイーヴな姿だった。

  「本当に大切なものが何だったのか、僕はもう忘れてしまったよ」と歌う1曲目<大切なもの>。いきなりこういうテンションで始まるあたり、このバンドがそれまで歩んできたポップな路線の真逆を行く展開である。

 その後も、「全てを受け入れるほどタフにはできちゃいないみたいさ」と呟く<せめて未来だけは・・・>や、「誰かこんな僕いりません?」とたずねる<センチメンタリアン・ラプソディ>など、内面をほじくり返したような粗い言葉が続く。

 そして、そのガラス工芸のように繊細な歌詞を、いかに曲として成立させるかという一点に向けて、音が構築されていく。ストリングスから打ち込み、果ては“台詞”に至るまで、さまざまな音を総動員しているのは、単純にカラフルさを狙ったものと言うよりも、メンバーの楽器だけでは世界観を表現できなかったからだろう。音が幾層もかけて言葉をパッケージするように、一つひとつの曲が作られている。

 このアルバムが当時どれほどファンに受け入れられたのか定かでないが、ただそれまでの作品から察するに、おそらく歓迎よりも戸惑いと衝撃の方が多かっただろうと思う。

 だが、愛と友情を無邪気に信じる思春期の幼さを冷凍保存し、それを永久に変奏するのがポップスであるならば、ロックは成長に伴う感性の揺らぎを移ろうままリアルに表現するものである。初めは勢いに任せてポップでキャッチーな作品ばかりを作り、やがてそのエネルギーが失われた後に、今度はレコーディング技術の粋を凝らして内省的な世界を表現するという流れは、ロックバンドとして正統派であることの証である。

 『マテリアル』を作ることはSOPHIAにとって必然だったのだ。この作品は彼らにとっての『ラバー・ソウル』であり、『ペット・サウンズ』なのである。


“ROCKは詳しいぜ”と喧伝する<beautiful>のPV。「いかにも」なケバケバしいメイクは、ビジュアル系と呼ばれることへの皮肉たっぷりなアンサーである。この曲は昨年のtheatre project BRIDGE公演『アイラビュー』で劇中で使いました


※次回更新は8月17日(月)予定です

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